しずおか和牛 生産者の声 02
株式会社 遠山畜産(遠山裕丞さん)

新東名森掛川ICを降りて程なく、街道沿いから横道へ逸れ、細い山道を走ると山に囲まれたいくつもの牛舎が見えてきた。株式会社遠山畜産は肉用牛の飼育、仔牛の生産から、自社産の牛肉を販売する6次産業化行っている企業でもある。

話を伺う遠山畜産の代表取締役である遠山裕丞さんは30代後半、静岡県内の畜産業者の中でも若手だ。まず、先にひとつ伝えることがあるとすれば遠山社長は肉に対しての確固たるビジョンを持ち、時代を見据えた生産を消費者の事までしっかり考えて行っている方という事。畜産農家と会社経営者という、それぞれの視点から「しずおか和牛」の様々なお話を遠山さんから伺う事が出来たので是非ご一読ください。

山間に佇む遠山畜産の農場へ

「自然に近い状態で牛を育てること」

到着後、車を停めて牛舎を見渡す。派手さはないが手入れの行き届いた牛舎に向かって、盆地ならではの吹き下ろしてくる風が気持ちよく吹き抜ける。

遠山社長この牧場のロケーションとしては、山と山に囲まれているのがメリットなんです。山間にあるので(山の頂上を指差して)風が抜ける。そして山に囲まれているので日が出るのが遅くて、沈むのが早いんです。

確かに酷暑が続く近年、どこの農場も暑さに悩まされているのが現状だが、遠山畜産では周りを山に囲まれている事により、牛たちにとって一番辛い時期をここ、遠山畜産の農場の牛たちは快適に過ごすことが出来るのだろう。

牛舎に着くと人懐っこい牛たちがお出迎え

遠山社長私は牛を自然に近い状態で飼うのをモットーにしているんです。見てわかると思いますが余分なシートは付けていません。どんどん風を抜かせて換気がいい状態にすることで少しでも牛たちに快適な環境を作れるように努力しています。とにかく、うちの牧場で育てる牛にはストレスを出来る限り与えない様に意識して徹底しています。ツノを切らず、鼻環もしません。整腸剤なんかも一頭ずつ、牛の調子を見極めて手から与えるようにしています。

遠山畜産の牛舎は自然に溶け込んでいる。なかなか言葉にはし難いが、牛舎の中に立っていて不快な空気感がなく、気持ちが良いのだ。そして何より驚いたのがその人懐っこさ。仔牛なんか人を見かけるとぴょんぴょん飛び跳ねながら近づいてくるし、どの牛も近くに寄るだけで興味深そうに近づいてくるのだ。これは後で遠山社長に教えて頂いた事だが、普段から人が近くで飼育していればいる程、人懐っこくなるそうだ。こんな些細な所からも農場全体で牛たちを大切に育てているのが伺える。

立派な角が生えた遠山畜産の牛たち

「畜産と消費者のニーズ」

遠山社長ストレスは肉質に必ず影響を与えるので、負荷をかけ過ぎないようにしています。実際は負荷をかけるとサシが入るが、芸術的なサシが入っても脂ばかりで肉の味がなくなってしまう。これが一番やってはいけない事でしょうね。味を落とさないように絶妙なバランス感覚が必要なんです。

遠山社長は育てるだけでなく、牛の世話もしながら常に消費者のニーズにアンテナを高く張る事が大事だとインタビュー中に何度も強調されていた。

遠山社長首都圏に出荷すると時代のニーズが良く分かるんです。しかし、何をやるにも時間はかかるんですよね。牛の出荷に2年、これを繰り返していくと人生でチャレンジできる事は限られてしまう。
だから、今後はそんな消費者のニーズを「しずおか和牛」の生産者で共有していきたいと考えています。みんなで同じ方向を向いて高い品質のものを静岡県の生産者が一丸となって目指せば、ブレが無くなり、強みにもなる。
静岡の地で、先人たちが培ってきた技術があるからこそ、それが出来ると思っています。
時代に合わせて少しだけ変化させればフィット出来る様になれるんですから。

時代のニーズを捉えることで、消費者に選ばれる和牛にしていきたいという遠山社長の想いが言葉の端々に感じられ、生産者と経営者、そして消費者の目線全てを大事にしていきたいと何度も口にしていた。

「新しい技術の導入」

遠山畜産では、積極的に新しい技術も取り入れている。牛の事故を防ぐために牛にセンサーを付け、異常をいち早く察知出来るようになっているし、個体の管理もすべてスマホから閲覧が可能になっている。

遠山社長色々な技術を導入したきっかけは、景気が良くなった時に他業種に人がいってしまい人が集まらないという問題に直面した時です。昔ながらの良いやり方はそのまま残し、機械で補える事は機械にまかせています。牛舎は古くても、新しくて有用な事はどんどん取り入れるようにしています。

畜産関係者の悩みのひとつが人手不足の問題。少ない人数で高いクオリティの和牛を生産する事に新技術を進んで取り入れることによって実現している。

「6次産業への挑戦」

遠山社長6次産業に手を出したのは、ニーズを深く汲み取り生産に反映させるためです。人を集めるところから始まり、施設を借りてと大変な事だらけでした。ただ、実際に消費者やバイヤーの方たちとコミュニケーションが取れるようになってから、様々な意見をくれるので、生産の方もとても刺激になっています。6次産業化をやり始めたからこそ、初めて言える事も沢山あります。 どうやって自分の肉を食べてもらえるのか。値段なのか、味なのか、そういった声を拾いながら答えを出していっています。

インタビューの後半には、遠山社長が現在行っている販売の現場も案内してくれた。遠山社長の親戚が経営する食堂、そして藤枝市にある美容院の2階に様々な調理器具を持ち込み、スタッフの方々と実際に遠山畜産で生産した和牛を口にしながら味について語り合っていた。そこに居た方々は畜産関係でもない本当の消費者。こうやって遠山社長は返ってきた意見を元に「どうやったら美味しく食べてもらえるか」という事を常に模索する姿勢が印象的だった。

西掛川にある遠山食堂では遠山畜産の肉が使われている
藤枝市の美容院CARE LABELの2階には本格的な調理器具が!
スタッフと一緒に試作品の味見をする遠山社長

「しずおか和牛とは」

遠山社長自分本位の良いものを押し付けで売るのでは「しずおか和牛」はブランドとして後退していってしまうと思います。そうならない為にも私達は手間をかけ、少人数でも高品質の和牛を生産しています。
高い素牛を買って等級の高い牛を造るのはある程度年数を重ねれば誰でも出来ますが、良い素牛を買って美味しく仕上げるのが本来の生産者の仕事だと思っています。

遠山社長和牛はどうしても【良いもの=脂っこい】というイメージを持たれてしまいますが「しずおか和牛」はそうじゃないんです。静岡県の技術の高さのおかげで、サシの入れ方が皆上手。味に深みがあるのに良い意味でクセが無く、どんな料理でも合うんじゃないかと。
やはりまずは「しずおか和牛」は静岡県内の人たちに沢山消費してもらいたいと思っています。静岡県で育った人にとっては県外からの人では感じない、その土地で育ったものを食べた時に感じる何かがあると思うし、それも一緒に伝えていきたい。
そして、「しずおか和牛」を目当てに静岡県外からも食べに来てもらえるような魅力的なブランドを目指していきたいと思います。

遠山畜産で生産される高品質な「しずおか和牛」。遠山社長の高い吸収力と反映力で、より美味しく、誰からも愛される美味しい和牛ブランドとして、もっと市場に多く流通することをぜひご期待ください!

取材協力

株式会社 遠山畜産

〒436-0226
静岡県掛川市遊家1111

https://tohyamachikusan.com