しずおか和牛 生産者の声 03
杉浦 浩務さん

のどかな茶畑に囲まれた御前崎市に杉浦浩務さんの経営する牧場はある。山間にあっても駿河湾が近いせいか強くて気持ちのいい風が吹き抜ける。

杉浦さんは御前崎市にて家族で牧場を経営している畜産農家だ。飼育頭数は現在は84頭程。繁殖と肥育の両方を行う一貫経営で運営しながら新しい技術を積極的に取り入れている杉浦さんにお話を伺った。

山間に豊かな茶畑が広がる

杉浦さん御前崎はお茶と田んぼ、そして山が多く、牛舎は静かで穏やか。そして日照時間が日本一になった事もあるくらい日が長い、天気が良いことは牛の体にも良いことしかないからね。海風も吹くし夏は涼しく冬は暖かい。けど風が強いのは難点だね。でも今どきに捉えれば換気が良いって事になるね(笑)。

確かに、民家が近いとどんなに気をつけていたとしても牛の鳴き声や匂いが気になるところ。日照時間も含めて、御前崎は牛を育てるのには最適かもしれない。

茶畑を抜けると杉浦さんの牛舎が見えてきた
牛の肥育へのこだわりを存分に語って頂いた

杉浦さん仔牛を買うときは血統を重視して、サシも脂質も良い牛を買うようには努力してるよ。高いけどね(笑)自分でも生産してるけどリスクがある。チビ(仔牛)なんかすぐに風邪を引いてしまうからね。今はスマート畜産(Uモーション)をつけているから、来週出荷予定の牛が死んじゃったとか寝てて暴れて死んじゃったとかあったけど今は大分安心していられるけどね。

余談だが、杉浦さんはMS-DOS時代から自作PCを数台組み上げてきたという畜産農家の中でもバリバリのIT派。新しいものをどんどんと取り入れていく姿勢は是非見習いたいところ。

杉浦さん付ける前までは夜中12時、3時、早朝と見に行ってたんだ。冬なんか本当に寒くて辛かったけど今はよほど変な動きをしない限り行かなくなったね。データ管理も出来るし、勘よりもデータでフィードバックがあるのでありがたいよ。

杉浦さん良い牛を作ろうとするとやっぱり分娩が大変だね。いくら可愛がっていても急死してしまったりするから苦労したよ。

より美味しい牛肉を生産したいからこそ、勘に頼らず、今まで蓄積されたデータを元に育成の方法を調整しているそうだ。今までの経験とデータによる管理で一層美味しい牛肉が望める。

また、杉浦さんの経営する牧場では繁殖も行っている。ET(胚移植:受精卵(黒毛和種の受精済みの卵子をホルスタイン(乳牛)のお腹(子宮)を借りて(胚移植し)成長させ、黒毛和種をホルスタインに生ませる技術)をするので子牛が生後数日で牧場に来る。体調を環境に左右されやすい仔牛だからこそ、風邪を引き易かったり、環境が代わるので乳の飲みが悪くなり易くなりがちなので、管理に細心の注意を払っているという。

「サシがはいっているだけの肉は目指さない」

杉浦さんただサシが入ってる肉だと今は敬遠されるからね、元々の血統もあるけど餌にこだわって肉の繊維がきめ細やかで味が美味しい肉を目指している。それに牛が大きくなればいいという訳ではない。餌でも脂質が決まっちゃうから餌にはこだわってるよ。

杉浦さんあまりさっぱりしていてもちょっと違うのかなと思う。和牛独特の脂の香りがあるからサシが少なくても赤身自体に旨さが詰まっていれば、トータルでむちゃくちゃ美味しい肉になるからね、みんなそこを目指してるんだ。やっぱり食べてくれる人に美味しいと言われたいからね。

最近の傾向としては、脂がびっしりと入った肉質よりも赤身が好まれる傾向にある。それはどこの和牛畜産農家や関係者ももちろん理解していて、くどくなく、より良い脂質の肉へ日々改善と改良、そして地道な努力により徐々に良い方向へ変わりつつある。

「和牛をもっと身近に」

杉浦さんやっぱり牛農家としては味のよく分かるシンプルな食べ方で食べてほしいね。若い人が好むような調理法で、雑誌に載っているようなおしゃれな感じが嬉しいね。料理人さんにはどんどん若い世代に受ける食べ方を提案してほしいなあ。肉の美味しさを保ちながらね。

若い世代はとくに和牛をあまり食べたことがない、もしくは脂っこいだけと言うイメージがあるのもいなめない。しかしそれは本当に美味しい和牛を食べたことがないだけかもしれない。 杉浦さんの様に、良い血統を辿り、こだわりを持ちながら牛を育てているからこそ、しずおか和牛の味を幅広い年代の人に味わってもらいたいと杉浦さんは語った。

「しずおか和牛とは」

杉浦さんさっきも言ったんだけど、もっと幅広い年代の人に食べてもらえるようになって欲しいかな。今まで県内でも各組織で作ってきたブランドがあったが「しずおか和牛」の様な県統一ブランドが出来たことによって安定した肉を出荷出来るからね。と畜場の新設でもっと品質が向上するだろうし、安全性もよりあがるだろうからこれからもっと良いものになっていくと思うよ。

杉浦さんの後継者も決まり、杉浦さんの技術・こだわりが次世代に引き継がれる。 全国の有名な銘柄牛と引けを取らない程、静岡県は多くの受賞牛を排出しているのは、杉浦さんの様に何世代もかけての創意工夫と牛への愛情の賜物だ。これからも杉浦さんの輩出する牛たちに期待せざるを得ない。

取材協力

杉浦 浩務さん

〒437-1605
静岡県御前崎市新野5103-5