しずおか和牛 生産者の声 04
有限会社 渡邊(渡邊頌史さん)

三ヶ日は広大な浜名湖の北岸に位置し、全国的にも有名な「三ヶ日みかん」の産地でもある。取材日は生憎の天気だったが、東名三ヶ日インターの出口をくぐると早速三ヶ日のマスコットキャラクターでもあるミカちゃんがお出迎え。

今回インタビューさせて頂く渡邊頌史(わたなべのぶふみ)さんは、父親が代表を務める有限会社 渡邊(代表 渡邊展明(わたなべひろあき)氏)」の後継者でもあり、静岡県内でも1、2を争う若手の畜産農家でもある。渡邊頌史さんは、有限会社 渡邊が所有・管理する5ヶ所の牛舎の内ひとつを任されている。飼育規模は5ヶ所で計330頭程。全て肥育牛である。

当日は生憎の天気だったがみかん畑が広がる穏やかな土地

「みかんが美味しく育つと牛も美味しく育つ」

渡邊頌史さん三ヶ日(牛舎の周り)は山もあり、湖もあり、大きな国道もなく静か。三ケ日みかんが特産であるように気候的には一年を通して温暖なので、牛にストレスをかけずに育てられます。一言で表すならThe田舎の様な土地です(笑)そして、みかんが美味しく育つと牛も美味しく育つんです。不思議です(笑)

有限会社 渡邊では和牛の他に、三ヶ日みかんを2.6町歩作っている。牛のたい肥は地元に還元しみかんの生産にも使われているという。また、渡邊さんの管理する牛舎の横にはたい肥舎があり、そこには、県内で珍しいスクリュー式自動攪拌装置を導入していた。スクリューが移動し下のたい肥を上に引き上げることで攪拌される仕組みだ。この装置のおかげで作業も大変に楽になったそう。実践を踏まえながら丁寧に説明してもらった。みかん畑へたい肥を還元するというのは、いかにも三ヶ日らしい仕組みである。

静岡県下で唯一のたい肥の自動攪拌装置。かなり大きな設備だ。
実際に動かして説明を受ける。たい肥が発酵する際に出る熱で湯気があがる。

「父親から学ぶ牛づくり」

渡邊頌史さん牛舎をひとつ任されているのですが、父親がたまに様子を見に来て、体調が悪そうな牛がいると助言してくれたりします。ある程度のマニュアルはあるんですが、やり方を押し付けられたりする事はないので、父親の(牛に対する)こだわりを日々勉強しながら自分なりの方法も模索しています。また、たった1日で牛の体調がころっと変わってしまうので、体調の変化が無いかどうかはよく見ています。とくに導入後の腹作り時は良く注意しています。

渡邊頌史さんうちでは肉屋さんが求め、その先の消費者が本当に安心で美味しいと思う肉を作るために父が餌の配合設計をしている。

父親の意見やマニュアルを参考にしながらも、実際に毎日牛を見ながら実践する。毎日が勉強と経験の積み重ねだ。

渡邊頌史さんあとは藁を切らさないようにはしていますね。あまりあげすぎると贅沢病になってしまうので、試行錯誤しながらバランスを見極めて与えています。成長にムラがない方がストレスが少なくてすむのかなと。

牛舎には綺麗に藁が積まれて並んでいた。この藁を牛たちは美味しそうに頬張っている。藁をしっかりと給餌する事で、牛たちの腹作りが出来るそうだ。藁をしっかりと食べ切れる量を見極めて給餌する、との事である。この方法も牛を毎日しっかりと観察していなければ到底出来ず、牛が健康でいるという事は渡邊さんの日々の努力の賜物でもある。

「肥育は遠い先の答え合わせ」

渡邊頌史さん牛を育てるっていうのは1ヶ月後すぐに答えが出るわけではないですからね。今やっていることも2年後には変わっているかもしれない。遠い先の答え合わせをしている感じです。それでお客さんに他と比べて質が良くて感動したとか言われたり、高値で売れたとか(笑)やっぱりそういうのは、嬉しいです。

素牛(8~10ヶ月齢)の導入から出荷まで2年近くかかる為、すぐに答えが出ないからこそ牛の肥育は難しい。そして今は肉の味に深みを出す為に、出荷月齢を27ヶ月齢から、去勢で28ヵ月齢以上、雌牛で30ヶ月齢以上としていきたいそう。

「消費者のニーズに合わせた牛づくり」

渡邊頌史さん(牛の)格付け等級が良いから消費者のニーズに合っているかといえば、それは違うと思います。僕は食べて本当に美味しいと思ってくれるのを目指していて。

渡邊頌史さん美味しく食べてもらえない理由ってなんだろうと考えた時に、やっぱり脂っこさだと思うんです。脂質がくどくて残してしまうような牛は作りたくないんです。サシがあっても全部を食べてもらえるような牛肉にしたい。残されると牛の命も可愛そうなので。食べてくれて、美味しいと言ってくれるのが一番のゴールです。

「しずおか和牛とは」

渡邊頌史さんやはり地元の牛はまず地元で消費してほしい気持ちはあります。ブランドとしてはまだまだ若いので、これからもっと露出を増やして欲しいと思います。育てる側からしても「しずおか和牛」というブランドがある事でそれが自信にもなるし、やりがいにも繋がりますので。

渡邊頌史さんそして周りに同年代の畜産農家が少ないので、若い世代にもっと「しずおか和牛」を知ってもらってこのブランドを一緒に育ててくれる、若い畜産農家がもっと増えて欲しいと思います。

有限会社 渡邊では自動化技術を積極的に取り入れたいという意思があるそうで、技術の導入により、労力を軽減することで、畜産をより魅力的にし、若い人にも畜産に興味をもってもらえればと語っていた。渡邊さんの様に、若い畜産農家は日本全国を見渡しても貴重だ。これからの静岡県の畜産シーンを牽引してほしいと願わずにはいられない。

取材協力

有限会社 渡邊(渡邊頌史さん)

〒431-1411
静岡県浜松市北区三ヶ日町福長326番地